オンライン学習会「介護」

 

 

7. 塚田さん 第1回講義

<医学的見地から>
<女性の老後は旦那次第?>

 

<医学的見地から>

さて、少し、私の方からも医学的な立場で話をしてみたいと思います。

 介護が必要な高齢者の方は平成5年度( 1993 年)の調査では約 200 万人。 2000 年には 280 万人に及ぶとされています。

1.どういう病気で介護が必要になるのでしょうか。

以下のデータは平成9年の訪問看護統計調査からの抜粋です。

 最も多いのは、循環器系疾患(心臓や血管系の病気)で、 51.1 %、特に脳血管障害が 38 %を占め、ついで、筋骨格系・結合組織の病気が 8.0 %となっています。脳血管障害は、いわゆる脳卒中といわれるもので、脳の血管が詰って脳神経細胞が破壊される脳梗塞、脳の血管が破れる脳出血、くも膜下出血などがあり、いずれも麻痺や失語など大きな神経系の後遺症を残します。

 意外にあなどれないのは、筋肉や骨などのケガや病気、たとえば骨折や変形性関節症などによる腰痛、関節痛のため、動けなくなる高齢者の方が少なくありません。病気についての詳細は、別途、後述しましょう。

2.痴呆の有無と寝たきり

 この調査では訪問看護ステーションの利用者の 49.1 %に痴呆があり、「寝たきり者」は 59.5 %、「寝たきりに準ずる」は 27.7 %と合計 87.2 %もの人が寝たきりに近い状態となっています。しかも、痴呆のある「寝たきり者」は、 34.5 %で、痴呆のない「寝たきり者」 25 %より多い結果となっています。痴呆については、また別の機会にお話ししましょう。

<女性の老後は旦那次第?>

 引用した平成 9 年訪問看護調査で、興味深い統計がありました。清水さんもお話しされた、介護は誰が行っているかという問題ですが、こちらの統計の方がもっと詳細のデータを提示しています。介護患者が男性であった場合、介護者の配偶者が 65.3 %、同居の子が 9.5 %(男 2.3 %、女 7.1 %)、同居の子の配偶者 9.4 %(男 0.1 %、女 9.2 %)となっており、別居親族は 2.9 %にすぎません。

 一方、介護患者が女性であった場合、介護者の配偶者が 17.7 %、同居の子 31.8 % ( 男 7.5 %、女 24.3 % ) 、同居の子の配偶者 26.7 %(男 0.5 %、女 26.2 %)、別居親族は 3.2 %でした。兄弟がいることも考えると、私たちが介護する相手は、姑、母よりも、旦那であることが一番予想されます。また、「遠距離介護」なんて本が書店で売れているようですが、やっぱり同居の家族から介護を受けている人が圧倒的です。

 そういえば、私の外来でも、ぼけた旦那をつれてくるおばあちゃん達の多いこと、多いこと。一様に「こっちが疲れた。」、「私の方が介護してほしいよ。」なんて愚痴のオンパレードです。旦那の介護なんてまだまだ先の話だなんて思っていても、今から旦那の健康管理はしっかりしておかないと、お互い年を取ったときに苦労するんですよね。 後ほど、介護の疾患と我々や旦那、そして両親の健康管理をする上での注意や痴呆について話したいと思います。

 

Dさん:

「兄弟がいることも考えると、私たちが介護する相手は姑、母よりも、旦那であることが一番考えられる」なんて、これは、意外に気がつかない盲点ですね。オットを介護する頃には、自分も相当弱っているはず。姑や母なら逃げられるかも知れないけど、オットからは逃げられないですものね。義母も義父が元気な時は「リストラ離婚」等と言ってましたが、いざ、義父が病気になったりすると簡単に見捨てられないようで、文句を言いながらも世話をしていました。

あやふやな記憶ですが、 70 年代か 80 年代に厚生省が、「長生きの秘訣」を調査したところ、「若くして夫と死に別れた子持ちの女性」が一番長生きするという結果が出て、未発表に終わったというのを聞いたことがあります。それだけ、オットの世話が大変だったということでしょうか?

しかし、最近の調査で、配偶者に先立たれると寿命が短くなり、未婚だと不摂生になるせいか、さらに短くなるというのがありましたね。最近は働く女性も増えたので、ストレスの為に女性の寿命も短くなり、オットに介護されることも少なくなくなるのでしょうか?

先の調査で、オットが妻の介護をしているのは、 17.7 %とありましたが、これは既にオットが死亡しているから数字的に低くなっているのでしょうか? それとも、生きているのに妻の介護をしないということなのでしょうか? ちょっと興味深いですね。

Hさん:

清水さん、塚田さん、丁寧な講義をありがとうございます。実は、この学習会が始まるのと前後して、旧友とのメールのやり取りが始まりました。

友人は 30 歳の独身男性で、両親(共に 60 代後半)と同居しています。昨年母上が脳腫瘍の手術をし、障害が残って介護の必要な状態になりました。定年退職された父上が主に介護に当たり、彼も手伝っていました。けれど先日父上が交通事故で入院され、1人っ子の彼が一挙に、たった一人で両親の面倒をみる事態になりました。大手電気メーカーに勤める彼の会社には介護休暇があるそうですが、それは使い切り、有給休暇もほとんど残らず、休職を考えていると言っています。メールから察するに、事故で入院するまで、父上が相当肩に力を入れて、何もかも頑張ろうとしていたようです。あまり立ち入ったことは聞けないので、母上の障害の程度が分からないのですが、入浴などは市のヘルパーに頼っているが、給食サービスは、舌に合わないので利用していないと、言っていました。

核家族で配偶者が倒れたらどうなるか。家庭に融通のきく女手がないとどうなるか。家庭の問題(介護)に他人の手を借りたくない日本的メンタリティなど、清水さんが指摘されていた問題が、まとめて起っているような状態です。

介護は子育てと違って、いつ終わるか先の見えない負担が続くわけです。継続的な介護の必要な病人が家庭にできた時に、特定の介護者(この場合父上)が全てを負担するような体制だと、長続きしないと思います。むしろ、介護が始まった初期の段階で、継続できる体制作りをしないと、介護の終わり、すなわち要介護者の死を待ち望むようなことになってしまいます。介護の必要な高齢者というと、すぐにアルツハイマー患者を想像していましたが、塚田さんのデータを読んで、むしろ脳や筋骨格系の疾患で障害が残った場合が多いことを知りました。

以前に、「介護と看護の違いすら分かっていない」との発言を読んで以来、疑問に思っているのですが、例えば脳卒中で倒れ、一命は取り止めたものの障害が残った場合、看護から介護への移行は、どのように行われるのでしょうか? 保険や施設の違い、移行の時期、そして何より家族に求められる負担は、看護と介護で、どう違うのでしょうか?

会社が保証してくれる介護休暇の日数では、実際の介護労働は無理だというのが現実です。むしろその休暇中に、必要な体制を整え(諸手続きや、在宅なら改築やヘルパーの手配など)、要介護者のいる新しいライフスタイルを始める心積りを持つのがよいだろうと考えています。心構えを築くための予習を、この学習会でさせていただきたいと期待しています。

余談ですが、私は連れ合いと結婚するとき、この大きな体格が寝たきりになったら、天井から縄をぶらさげて上げ下げしないと持ち上がらないだろう、年をとったら梁の太い家に住まなければ、と決心しました(笑)。これからの時代は、プロポーズされたら「私が寝たきりになったらオムツを替えてくれるか?」って聞かないと、いけませんね。

塚田:

そうですね。これからは予測の通り、4人に1人が 65 歳以上の高齢者となり、4人に1人が 18 歳未満の年少者になるのであれば、残りの働き盛りの2人に1人分は、介護か育児にあたらなければいけなくなりますよね。その時日本の生産性はどうなるか考えると、厚生省が騒ぐ気持ちもちょっと分かりますよね(もちろんそれだけではないのですが)。

現代は、独居老人か老夫婦だけの世帯がほとんどになりつつあります。(平成8年国民生活基礎調査)

独居老人の家庭に訪問診療に行くと、多くの独居家庭では、身体活動の制限のため、掃除もままならず、床は埃やゴミや食べ物で渾然一体となり、層を成していることがあります。訪問看護ステーションの看護婦さんたちは、訪問に行くときは、靴下は使い捨てに限ると話しています。また、訪問の度に旦那さんの仏壇にお供えしてあった、少々干からびて線香臭くなった果物をいただくことがあり、感謝してくださる気持ちは有り難いけど、ちょっと困ってしまう。。。とも話していました。

一方、子供たちが、よかれと思って、新しく2世帯住宅を建てたり、自分のもとに引き取ったりすることが、時に痴呆の引き金になったりします。病院や新居から抜け出し、昔の我が家の跡地に立ちすくむ老人も、少なからず経験しています。年を取った方が、適応力は断然劣るのですから、同居するタイミング、引き取るタイミングには十分配慮してあげなければいけませんよね。。

いずれにせよ、独居で老後を迎えるか、同居で老後を迎えるか、現場をみていると本当に考えさせられます。

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Last updated on 17 September 2001 by Michiko Takeda