私たちの現在:日本の女性と子どもの人権についてのレポート

シングルマザーが提案する「住みやすい日本」

【英訳はこちら】
執筆・しんぐるまざあず・ふぉーらむ/市川真紀

               

■日本のシングルマザーの現状

母子家庭が増えてきている。今年の3月に厚生労働省から発表された平成10年度全国母子家庭等実態調査によると母子世帯数は95万4900世帯で5年前の調査から2割増加している。このうち離婚母子世帯が全体の約68.4%で前回調査から29%の増加、非婚母子世帯は全体のわずか約7.3%でありながら、その増加率は85%と著しい。

しかし生別母子世帯の生活実態は厳しく、その平均年収は216万円ですべての世帯の平均世帯収入の約3分の1である。その理由は日本の社会制度に起因するところが大きい。問題と思える点を探って、改善策を提言してみたい。

■現行の社会制度の問題点と改善要望

1.児童扶養手当

シングルマザーたちが一番頼りにしている児童扶養手当。これは国の制度で、こどもの数と前年度の所得によって支給が決まるが、この手当のおかげで、なんとか生計を立てている母子世帯は多い。

それにもかかわらず厚生労働省は離婚増による財政難を理由に児童扶養手当の所得制限や支給制限を厳しくし、総額を抑制する方針を打ち出している。3年前の1998年にも,所得制限が大きく引き下げられたばかりである。少子化防止対策として児童手当の拡充が図られる一方で、母子家庭への手当がなぜ削減されなければならないのか。代わりに職業訓練や雇用企業への助成金支給の拡大などがうたわれているが、いまだに日本では男女の賃金格差が大きいこと、特に幼児を抱える女性は残業ができない、などの理由で企業から敬遠されがちであること、などの問題を解決しないままでの就労支援策の成果には疑問を禁じえない。

母子家庭の命綱とも言われている児童扶養手当法は拡充こそされるべきで、切り捨て・削減は絶対にやめてもらいたい。

2.寡婦控除

税金を計算する際に受けられる控除のひとつに寡婦控除があるが、離婚か死別の場合は受けられるが、非婚の母子家庭は受けられない。年間35万円もの控除を受けられるかどうかは、住民税はじめ前述の児童扶養手当受給の可否にも大きく影響してくる。しかし非婚の母でも過去に離婚歴あるいは死別歴があれば寡婦とされ、この控除を受けられるのである。親の事情によって、本来こどものために支給される手当の支給基準が変わってくるというのはおかしな話ではないか。この摩訶不思議というか矛盾している現行の寡婦控除はぜひすべての母子家庭に適用してもらいたい。さらに一歩進んでいえばその名称をあらため、たとえば「ひとり親家庭控除」とし、すべてのひとり親世帯に適用できるようにしてもらいたい。そうすれば児童扶養手当は父子家庭は受給対象とならない、という現行の不公平と思われる基準を是正することにもつながる。

3.養育費

1998年までは児童扶養手当は婚外子が認知を受けている場合は受給できなかった。認知されていれば養育費をもらっているとは限らないのに、である。実際に生計を考えて、手当受給のために認知を断念した非婚母子家庭もあった。

この点は改善されたものの、平成13年度からの実施が見込まれている児童扶養手当法改正案の中には養育費を算入する案が盛りこまれている。元夫や父親にあたる者が養育費を支払うよう法律に努力義務を明記する、ということらしいが「努力義務」にとどめるなら国や行政に支払いを命じる権利はないわけで、どれほどの効果が期待できるのかまったく疑問である。

父親から養育費を受け取っているシングルマザーは厚生労働省の調査によると約20.8%で以前よりも5%ほど増加したとはいえ依然として大変低い。日本では養育費支払いを取り決めた法制度が未整備であることと無関係ではないだろう。養育費はきちんと制度化してほしいし、そのためには養育費を所得控除の対象として支払う者の給与から天引きにするなどの策を講じるべきだろう。

4.年金制度

専業主婦世帯を優遇する現行の年金制度もシングルマザーの生活に大きなマイナスを及ぼしている。第3号被保険者といわれる厚生年金・共済年金に加入している人の配偶者は保険料を支払わなくていいのである。その人たちの保険料は、厚生・共済年金に加入している第2号被保険者全員によって支えられている。生活をかけて働いているシングルマザーがなぜ専業主婦の保険料まで支払わなくてはならないのだろうか。

また、この特典を維持するために年収を130万円以内に抑えて夫の扶養内にとどまろうと労働調整するパート主婦は多い。少しでも時給が上がることを望んでいるパートで働くシングルマザーは収入を制限しようとする専業主婦たちと同じ土俵で働いている、という厳しい状況にあるのだ。

現在、2004年の公的年金改革に向けて様々な試案が出されているが、その中でも年収65万円以上であれば厚生年金に強制加入となる案や離婚時に夫の年金を妻にも分割する「年金分割」案は歓迎したい。

5. 婚外子差別

日本では戸籍の記載が法律婚によるこどもの場合は第1子は長男か長女となるところを、婚外子(=非嫡出子)の場合は、男児であれば「男」、女児であれば「女」とされること、相続分はいわゆる婚内子(=嫡出子)の2分の一と定められていること、など様々な差別がある。婚外子か否か、ということは本人には選択の余地も責任もないのだから、差別は憲法の定める法の下の平等に違反するものだ。このような歴然とした差別が残っているのは世界の先進国の中でも日本だけで、国連人権規約委員会から1994年と1998年に人権侵害であるから差別撤廃を勧告されているにもかかわらず、法改正は遅々として進んでいない。

人権後進国と国際社会で何かと揶揄される汚名返上のためにも、またなによりすべてのこどもは平等である、という人権を保障するためにも、この法改正は必ずや実現されるべきものであるといっていいだろう。

幸い、婚外子に対する人々の意識にはその増加に伴ってか変化が出てきている。いわゆる「未婚の母」がNHK番組の主人公になるなど、前向きに捉えられている風潮も出てきた。人権意識高揚のための啓蒙活動が不可欠だろう。

■誰もが生きやすい社会に

「しんぐるまざーず・ふぉーらむ」は母子家庭の当事者を中心にシングルマザーが子どもと共に生きやすい社会、暮らしを求めて、提言・情報交換・相互援助、交流等をメンバーがボランティアとして活動している任意団体だ。前述で掲げた社会制度の問題点を行政に働きかけたり、メディアを通じて差別の解消と権利の拡大を世論に訴える活動を続けている。

シングルマザーが生きやすい社会はみんなにとって生きやすいはずだ。そんな社会を実現するためには、まず「すべての人は平等である」という基本に立ち返って差別的法律をすべて撤廃することだ。そして改善のためには標準世帯を単位として課税や福祉が適用される社会システムを、個人単位に改め、全ての社会構成員に行き渡るような制度を確立することが必要だ。また重要なのは当事者であるシングルマザー自身が社会変革の提言を積極的に行えるような土壌を社会システムとして作り出していくことだ。こうしたことにシングルマザーも力を発揮できるのだ、ということに日本の社会もそろそろ気付くべき時だろう。

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しんぐるまざあず・ふぉーらむ 

母子家庭の当事者を中心にシングルマザーが子どもと共に生きやすい社会、暮らしを求めて、提言・情報交換・相互援助、交流等の活動を行うグループです。月1回の定例会、年4回の会報の発行、新年会・夏合宿等のレクリエーション、アサーティブトレーニングやコウ・カウンセリング、学習会等、不定期のワークショップ等の活動も行っています。1994年には現代書館から『母子家庭にカンパイ!』も出版し、更に2001年7月に改訂版『シングルマザーに乾杯』を出版しました。

〒169-0073 
東京都新宿区百人町2-5-5-205
TEL: 03-3365-0418 FAX: 03-3365-0418
メールアドレス: single-m@mail.big.or.jp

市川真紀
都内に3歳半の息子と二人で住む、非婚のシングルマザー。英文雑誌の編集者を7年間していたが、会社の経営不振による整理解雇に遭い、現在同業において求職中。ライターとしては、国内外比較をしつつ、家族問題、女性関連、人権問題などについて執筆している。作品例としては"Marrying for Who?"(Mini World No.75, February-March 2001)がある。1994年から2年半NGOのスタッフとしてカンボジアに赴任、農村開発や幼児教育支援分野の国際協力に携わった経験もある。

 


私たちの現在では、日本の女性と子供の人権に関わる社会問題に取り組んでいる個人・グループに、それぞれの分野について報告していただます(内容は2001年10月時点でのものです。)
また、現代日本女性の生き方を海外に紹介する目的で、英訳「Japanese Women Now」をWOM英語版ホームページに掲載しています。

今回取り上げたトピックは、ドメスティック・バイオレンス、夫婦別姓、介護、女性の就労、セクシャルハラスメント、雇用機会均等法、 シングルマザー、児童虐待、女性と医療、 リプロダクティブ・ヘルスです。一覧は、こちらです。

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Last Updated January 15 2002, ©2001 Women's Online Media 禁無断転載