
トランスセクシャル(Transsexual)という選択
トランスセクシャル(Transsexual)という言葉は聞いたことがあるけれど、どういう場合を言うのだろう?セクシュアル・オリエンテーション(性的指向性)と、セクシュアル・アイデンティティー(性自認)は、別のものなの?性転換を求める人の性的指向はホモセクシュアルなのかしら?私たちの疑問は、まずTSって何?という所から始まったのですが、結局、女性とか男性って何だろう?というもっと私たち自身に関わる疑問に膨らんでいったのでした。
以下、みなみさんと、WOMメンバーによるe-mailのやりとりで行われたQ&Aを再構成したものです。
・Part 1 TSであること・
まず、MtF/TS(男性の肉体から女性に性転換したトランスセクシャル)のMtFは大文字のMTFよりMtFと表記した方がいいらしいけれどなぜ?という当たりから、質問が始まりました。
<MtFつまりMale to Femaleの略。まんなかのtはなぜか小文字で書くことが多いですね。>
Q:わっ!!そうなの?知らなかった。どの辺界隈で流通しているルールなの?
A:どのあたりって、たとえばアメリカではそう書かれることが多いように思います。でももちろんMT/FTMと書いてもかまいませんが、tが小文字の方が よりわかりやすいし、新しい言葉として覚える方がいらしたら、ぜひt小文字で覚えていただきたいな、と思ったんです。
Q:みなみさんの場合は、生まれついた男の体と、自分の心(と呼んでいいのかしら?) が一致しなかったから、体を変える方法を選ばれたのだと思いますが、それは100 %自分の在り方の問題だったのでしょうか?それとも、性的関係を持ちたい他者の存 在があって、決心したことなのでしょうか?
A:100%自分の在り方の問題です。(きっぱり!)もし、性的対象のためだけに自分の体を変えようとするなら、それはとても不幸なことだと私は思います。確かに世の中ヘテロセクシズムの風が無意味なまでに堂々と吹いていますが、たとえ女/男同士で愛しあって悪いことはありません。相手のために身体を変える必要など、どこにもないように 思います。事実、女性が好きなMtF(レズビアン)、男性が好きなFtM(ゲイ)という方もたくさんいらっしゃいます。ただ人によっては自分が女/男であるということに気付くきっかけが恋愛だったということはあるかもしれません。
Q:つまり、TSと性的指向(ヘテロセクシュアルか、ホモセクシュアルか、バイセクシュアルか)とは別のことなわけですね。
A:その通りです。自分自身の性別と、性の対象のとなる人の性別は本質的に無関係だと思います。ところが世の中、この2つを完全に混乱していて「みなみさんは男の人が好きだから女になったんですね」なんて言われると、がっかりします。そんなあほなって思うのは私だけでしょうか。
<TSの人は、理由は当人にもはっきりわからないけれど 生まれてきた身体が自分
の本来の性のものとは違うと強烈に感じ、元の性の身体に 戻すために、多くの困難
を経て、最終的には手術まで辿り着く。>
Q:みなみさんは、何歳ぐらいのころに、自分の男の体と、自分自身が一致しないと感じ始めたのですか?
A:生まれてから、としか言いようがありませんが、それではあまりに嘘っぽいですね。この違和感を言葉で表現できるようになったのは、ここ10年位のことでしょうが、違和感そのものはずっとずっと、それこそ記憶のある限りあったように思います。たとえば、童話を聞かされても感情移入してしまうのは、弱いもの、かわいいもの(:普通は女の子/人?)でした。
Q:その違和感が何か、どうすればいいのか、どうやって知ったのですか?特別なきっかけがありましたか?
A:特別なきっかけというより、それは本を読んだりして自分で見つけていったという感じですね。一般的にTSの人は、そのことに関してとても勉強熱心。自分を確かめるための情報があれば、貪欲という言葉がふさわしいほどに食いついていきます。私が20歳くらいの時に少ないながらもTSに関する情報が出始めたりして、だんだん自分のことがクリアになってきたという感じです。
そしてその自分を受け入れたのは、20代半ばに1年だけアメリカに留学したのが
直接のきっかけと言えば、きっかけです。それまで「こうありたい自分」というのが
あっても「社会はそれを許さない……」みたいに、弱気になっていたのですが、アメ
リカ人ってわりとそんな風な思考をしないですよね。本当にやりたいんだったら や
ってみなさい、みたいなところがありますでしょ。そんなのを見てたら、これは私も
しっかりしないといけないと思ったのでした。
<みなみさんは、日本ではサイズの合うお洋服がなかなか買えないので、アメリカに来るとクレイジーショッパーになってしまうそうです。>
Q:どんな服装が好きですか? 子供の頃、女の子の服に憧れましたか?
A:子供のころ……憧れたなんてものではありませんでしたね。なぜ自分だけスカートがはけなかったのか、納得がいきませんでした。いつでもそれは欲しかったし、今でさえお気に入りのブティックに入ると心ここにあらずになったりして……ちなみに最近はすっかりバナナ・リパブリックのファンです。
でも一つだけ言っておかなければならないことが。テレビなんかの影響なんでしょ
うか、私みたいな人は(本物の)女の人でさえしないような「ハイパーフェミニン」
なスタイルを好むように、一般的には思われているようですが、そんなことはぜんぜ
んないんですよ。私がちょっと例外的ということもあるかもしれませんが、普段はだ
いたいジーンズですし、そんなに女オンナしたものは着ません。もちろんパーティの
時とか、デートの時なんか、がんばっちゃうこともありますが、それはまたそれで当
然ですよね。このあたりは、ぜんぜん普通の女の人と変わりないって言ってもいいと
思います。 (あ、もちろん中にはハイパーフェミニンスタイルが好きなMtFもい
ますね……)
Q:「ぼく」にしろ「わたし」にしろ、幼い頃から一人称代名詞が使いにくい ということはありましたか?
A:これもハッキリ言ってしまいましょうね。私、10代の半ばまでしっかり優等生してたんです。 だから……というわけでもないんでしょうが、普通は男の子が使う一人称をそれほど抵抗なく使っていたような気がします。もちろん今は「ぼく」だの「おれ」だのは、使うにも使いようもありませんけど。
・Part 2「男」であったこと・
<「男」って損!とか、「男」ってバカじゃない?とか、何でこんなことに夢中に
なれるの?とか思ったことありますか?....それはよくありますね。でも、最近では
それを通り越して、そんな男の人のことを見ているとかわいいと思ってしまいます。>
Q:男である自分が嫌だったので、女になりたかったという時期がありましたか?
A:そうですね、第2次性徴は私にとって恐怖でした。ですから男性生理にまつわることが嫌でしょうがなかったという時期はありました。でも、だからと言って「女になりたかった」と言えば、それは語弊があります。私は女だから、その身体をもつことを求めたのであって、それは自分の中の男を 拒否した結果ではありません。単に男を拒否したなら、もっと別の形になっていたように思います。
Q:第2次性徴以降の 男性生理(いわゆる「男のからだ」にまつわること)以外に、社会的な男の役割にも 、抵抗や違和感がありましたか?
A:私は社会的な性役割にはあまりこだわらない方です。やりたいことをやるだけ、しないといけないことをするだけ。だから以前「あんたは男だから」と言われても、やりたくなければしないし、逆にいま「あんたは女だから」と言われても、嫌ならやりません。
Q:「女だから」と言われて、嫌だなと思うことって、具体的にどんなことがありますか?
A:くだらないことから言えば、吉野屋へ行って牛丼食べたりすると 顔をしかめら
れたりすると。いえ、別に私、牛丼ファンとか、吉野屋がないと生きて行けないとか
、そんなことは全然ないんですが、牛丼食べたい時もないことはない。なのにそんな
ことがぜんぜん許されない。それから……わかりますよね、生活していてもろもろの
細かなことです。
たとえば疲れている時でも電車の中でだらしない格好をしてはいけないとか、男みたいな話し方をしてはいけない(?)とか、小ぎれににしてないといけないとか……なんだかそういうくだらないことです。さすがに私に「女だから結婚して子供を産まないと」なんて言う人はあまりいませんが、もしそんなこと言われたら、きっと私、切れちゃうでしょうね。とにかく男でも女でも何でも、「〜〜だから」と言われるのは大嫌いです。
Q:「男として存在すること」に対する違和感は、どんな時に感じましたか?
A:たとえば人を緊張させたり、必要以上に気を使わせたり、そんな男の人がしばしば持っている存在感がたまらなく嫌でした。もっと一緒にいる人を安心させたり、恐怖感をみたいなものを人に抱かせない人になりたかったということはあります。
Q:相手を緊張させたり、必要以上に気を使わせたりというのは、女性といるときに感じたのですか?
A:たいていは、そうですね。女性でしょうね。 男同士では、ある程度の緊張関係がむしろ当り前のことなので、それはそれでいいのでしょうが、自分が女の人を「緊張させてしまう」のはとても嫌でした。別にそれは単に性的な意味だけではなく、雰囲気というか、うまく説明できませんが、とにかく「男」としての自分がそこにいることでその場に一種の緊張をもたらしてしまうというのは、とても苦痛なことでした。それに、できれば私と接することによって人にホッとしてほしいという思いが 私にはあるんです。前に「おんなの定義とは」みたいなお話になりましたが、このあたりのパワーのようなものが女/男を分かつものかなという気がしています。私だって男の人からエネルギーをもらうこともあるけれども、生きていく基本的なパワーって女から男に流れているような感じがしません?
・Part 3「女」であること・
<結構レズビゲイ・コミュニティにいると、TSがらみの人に会います。そん な中で分かるのは自分にはTSが入ってないなという事と(この事だけはク リヤーに分かるので面白いものだなという事と)、でもTSの人の、世間あ るいは外部が何と言おうと生まれた時の自分の身体に違和感があるという強 烈な自分だけの感覚に従って生きているというところが、“感覚派”の私に とて非常に共感と納得を呼ぶな、ということ。>
<「感覚派」っていいですよね。私も、一番大切にしたいのは、ロジックよりも気持ちいいか、よくないかだと思っています。>
Q:私にとって自分がレズビアンだと自らにカミングアウトした瞬間は一種の 強烈な覚醒体験だったのだけど、みなみさんは、例えば手術後、麻酔から醒 めた時などにそういう瞬間を体験しましたか?
A:ごめんなさい、いまいちピンと来ません。というより、そう言った体験は私の場合なかったと言えばいいのでしょうか。それとはちょっと関係ないかもしれませんが、自分が”こういう人間である”とはっきり自覚した時に、人間の力では変えられないいろんな肉体的事実(?)を受け入れるのに苦労しました。(というより今でも受け入れられてない)
たとえば、外性器の形は手術によって変えることができる。胸も薬の作用で ある程度は大きくなる。でも背や骨格はどうすることもできません。それにFtMが声を低くすることは簡単ですが、MtFが声を上げるのは大変。自分で自分のことがハッキリわかってしまった途端、そんな風に自分の力ではどうしようもないことを受け入れなければならない事実と正面から向き合わなければ いけなくなったというのは、いまだに苦しいです。
Q:みなみさんは、何歳の時に、女の体になったのですか?もっと早くそうしたかったですか?その場合は、何歳ぐらいで?
A:「女の体になった」……言葉尻をつかまえる気はありませんが、スゴイ表現ですね。 ところで、ちょっといじわるですが、「女の体になる」って、いったい、どんなことを指すんでしょうか。ホルモン・バランス? 内性器? 外性器? それともウエストの太さ? バストの大きさ? 一体なんでしょう?
Q:確かに、これは実は奥の深い問題ですよね。「女て何?」って聞かれたら、実は、当の女 にもわからないのでは。例えば、子供を生まない、生めない女性の体、乳房を切除した女性の体とか、無排卵月経とか、体に障害があるとか、生殖機能を基準に「女の体」を規定すると、外れる 女性も多いし。おっぱいが大きいだの、ウエストがくびれてるだの、声がかわいいだのって、女性ら しさを持ちだすと、そんな基準自体が移り変わるものだし。 「女の体」って、他人に規定される要素が多いような気がします。
A:そうなんです。いったい「女」とか「男」って何で決まるのか? だれもちゃんと考えたことがないけれど、一度しっかり見つめ直してもいいイシューではないかと思います。だって世の中、こんなにもこんなにも 女/男というものを大前提にしていろんなお話がすすんでいるけれど、でも、その女/男っていったい何のことなんでしょうか?なぜ自分は自分のことを女/男と言えてしまうのか。一人ひとりがもっとちゃんと考えるべきだと思います。
FROM みなみ:私の発言はすべて私個人の経験や考え方に基づくものです。決して「
TSは、すべてみなみと同じだ」という風には お考えにならないでください。正直
に言ってしまえば、私はMtF/TSの中でも、相当「カワッテイル」方です。もっ
ともいい加減、何が「フツー」かだなんて、誰にもわからない世の中ではありますが
、一応念のためにご確認させていただきたいと思います。
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Last Updated 18 May. 1996 by Seiko Fujii