世界のワーキングウーマン事情
〜オーストラリア保育園事情


はじめに

私は、高校の英語教師ですが、現在は一年間の予定で今年の3 月まで交換教員として、シドニーの高校(6年制なので日本の中学・高校にあたる)で日 本語を教えています。この交換教員プログラムでは、オーストラリアからは日本語教師が 英語を教えに日本に来ています。オーストラリアの一般的な話や情報はあとの関連リンクを 見ていただくことにして、ここでは私自身の個人的体験の範囲で、オーストラリアの WW事情について書いてみたいと思います。

さて、WWにとって一番の問題は出産・子育てではないかと私は思っている。もちろん出 産・子育てというのは現代の女性にとって数ある選択肢の一つでしかないし、あくまで (どなたかの言葉を借りれば)「こうのとりのご機嫌次第」の事柄だから、それを問題と しないという人もいらっしゃるだろう。でも、私が生きている教員の世界では同一労働・ 同一賃金がかなり行き渡っているし、私にとって働く上での一番の問題はやっぱり子供の ことになる。そこで、保育園を通してオーストラリアのWW事情を考えてみたいと思う。

 今回のオーストラリア赴任で、私はとても恵まれていた。おじいちゃん、おばあちゃん 達からは3才になる孫娘(私達の一人娘・智里)を連れて行くなという声は一切聞かれ ず、全面的なバックアップが得られたし、夫はこれを機会に自分も留学すると言って会社 を休職して一緒に来てくれた(これは、とても有り難いことだと思う。お陰で、ますます 頭が上がらなくなったけれど)。既婚女性の海外赴任を妨げるであろうハードルを、全て クリアできていたのだ。それでも、一番の問題は娘の保育園探しだった。家族の信頼を裏 切らないためにも、娘にとって最良の場所を用意しなければならない。娘を夫と母に託し て、一足先にオーストラリアに発った私の課題はできるだけ早く保育園と住む所を探し、 娘を呼び寄せられる体勢をつくることだった。

1. オーストラリアの保育園って??・・・渡豪前の話

さて、オーストラリアは北欧諸国に次いで、女性の社会進出が進んだ国といっていいだ ろう。男性の給料を100とした場合、女性の給料はオーストラリアでは81.1、日本では 43.6なのだから(ILO 1995年資料より)。智里を育てながら働くのは日本よりずっと楽な はず・・と思っていたのが甘かった。渡豪前から私が赴任するR高校のK先生と連絡をと り、保育園の手配を依頼したが、返事はかんばしくない。 週に三日預かってくれるところは押さえたが五日預かってくれるところはどこも満杯という (保育園状況は地域差があるらしく、シドニーの北岸にいるHさんは97年7月に来豪、 98年の1月現在、まだ保育園の空き待ちだそうだ)。 K先生は最悪の場合は智里を学校に連れてきてもいいというが、私の授業中に一 体誰が面倒みてくれるというのだろう。後に、私立学校が早々に休暇に入る学年末には、 子連れ出勤する教員が何人かいるのが分かった。この辺の大らかさがオーストラリア風? もう一人、保育園探しを頼んだオーストラリア人の友人の話では、一日$40かかる高級 (?)Childcare Center(保育園)は空いているそう。ちなみにR高校がある地域の Kindergarten(幼稚園)は一日$28位という話(Childcare Center,Kindergarten, Preschoolにほとんど差はないそう)。さて、一日$40なら週に$200,月におよそ9万。東 京での智里の保育料4万円弱の約2.5倍、どこが働く女性の国なんだ?のちに、親の収入に よって政府から補助金が出るので、それ程格差がある訳ではないと分かったが、それでも 高い。乳幼児の保育料が高いせいか、週に5日フルに預ける人は少ないらしく、智里の三 歳児クラスでも週に二日か三日しか来ないお友達が多い(5才になれば、義務教育の幼稚 園に無料で通わせることができる)。子どもが小さい内は週に三日くらいのパートタイム 勤務というのが、オーストラリアの Working Mother なのだろうか?同僚の話によると、 一歳半か二歳位まではパートタイムかフルタイムかどちらかの勤務方法が選べるという。

 「子連れ留学toオーストラリア 佐藤麻岐著 社会評論社」という本にオーストラリア の保育園の様子が書いてある。著者は30そこそこのフリーライター、4歳の娘を連れて タウンズビル(ケアンズから少し南の田舎町?)に3カ月間、留学する。彼女が見つけた のは週に$124の幼稚園、でもゴールドコーストの学校は保育料として4週間で8万円強を 提示してきたそうだから、都会はどこも物価高ということだろうか。 オーストラリアで はお弁当持参の保育園が多いが、給食サービスがあるところもない訳ではない。佐藤さん の娘が通った保育園のある日の給食は、ソフトクリームにパンとソーセージ!!しかも、 ソフトクリームを先に配るものだから、当然こどもはまずアイスをたいらげ、パンとソー セージを食べない子も出てくるという話が書かれていて、渡豪前の私を不安におとしいれ た。イギリス式の集団教育には「正しい食習慣」なんてのは、これぽっちもないらしい? 前にイギリスで全寮制のサマーヒル学校を見学したことがあるが、お昼の時に小さい子も カウンターでパン、おかず、飲み物、デザートなどが乗ったお盆を自分で受け取り勝手に 食べる。デザートから(デザートのみ?!)食べて残りはほとんど残飯入れに入れても誰 も何も言わなかった。しかし、大事な娘の食生活、守ってやるのは親の務めである。でき ればお弁当、しかも日本式のお弁当を作ってやりたいと思った。余談であるが、今R高校 で使っている日本語の教科書の名前は「キモノ」と「オベントウ」というそうだ。日本式 のお弁当は彼らにとって、驚異の的ということか(彼らのお弁当はサンドイッチに果物が 定番)。

 とここまでが、渡豪前の話。結局、何も当てがないまま、現地での保育園探しが始まっ た。

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2. 現地での保育園探し

言語学科の主任教員P先生が、自分の子供が行っていたニューサウスウェールズ大学 (UNSW)付属(大学の職員や学生のための保育園。UNSWは州立大学なので、保育園も公立)の カンガ幼稚園Kanga Kindergartenも含めてあちらこちらあたってみてくれていた。この カンガ幼稚園は週に三日しか預かってくれないし、他の公立はどこも満杯。という訳で私 立をあたるしかない。水曜の朝にシドニーに到着した私は、金曜の朝、P先生が連絡をと ってくれたWind in the Willows(柳の風)をまず見学。放課後また二つ見にいく。計三 カ所の保育園の印象をまとめてみると・・・

Wind in the Willows

定員27人。こちらの人は小規模の保育園の方が、目が行き 届いていいという。夫婦と通いのスタッフ1人、それに時々手伝いに来る人がいる。幼児 クラスからは子供10人に職員1人というのが、州の基準らしい。日本の智里の保育園で は3人に1人の割合だったので、ちょっと意外。給食サービスあり。金曜のメニューはソ ーセージロール、トスサラダ(う、貧相)。午前のおやつ(Moring Tea)には果物を持参、 皆の持ってきた果物を皆で一緒に食べるとのこと(自分のだけ、食べるのではない)。午 後のおやつ(Afternoon Tea) はチーズクラッカー。牛乳なども、もちろんつく。狭いが、 新しいのできれい。一日$35.。R学校の先生も二人、利用している。

Kindee

定員25人。スタッフ3+1人。ちょっと古いが、Wind in the Willowsより広 い。給食はないので、お弁当持参。菓子類はあまりお弁当に入れないようにとのこと。つ まり、持ってくる子がいるということか。おやつも持参とある。スタッフの一人は日本に 半年いたことがあり、日本語が分かる(日本語教育の盛んなオーストラリアでは、片言の 日本語が話せる人は珍しくない)。英語が話せないアジア系の子の保育経験あり。英語を 母国語としない子供に英語を教えるための手作りの絵本が用意してある。お昼寝が2時か ら4時なのと(私のお迎えが4時前、寝ている最中になる)、8時半ー4時半と保育時間 が短いのが難点。障害児もいて、特別な配慮が払われている。一日&31。

Nursery Nook Kindergarten

定員59人。年齢別の教室に分かれている。給食サー ビスあり。内容はバラエティに富みWind in the Willowsより良さそうだが、ケーキやア イスクリームも出る。朝のおやつ用の果物は持参。8時ー6時。一日$35。学校からちょ っと遠い。最近オーナーが変わった(他に売り渡された)というのも、気になる。

この時点での私の考えはWind in WillowsかKindee。肉売場を通ると、着色料の明らかな ソーセージがずらり並んでいるので、給食サービスはむしろない方がいいと思っている。 娘はアレルギー体質らしく生協のフライを食べさせても、かなり湿疹が出たもの。とする と、Kindeeになる。何といっても、日本語が分かるスタッフがいるのは、智里にとって心 強いだろう。ここの難点は保育時間が8:30〜3:30(特例で4:30まで)と短いこと、但しこ れで私のオーストラリアでの勤務時間(8:50〜3:15、なんと3時半を過ぎると事務室も閉 まってしまう)は充分カバーしてはいる。しかし、この保育時間で間に合うなんて教員く らいのものではないかしらん。もしもの時に、別の保育方法を考えなければならないが、 事前に分かっていればWorking Holidayの日本人で保母や看護婦の資格を持っている人を ベビーシッターに雇うといいと、在豪日本人の知人に教えてもらった。Wind in the Willowsの一週間の給食メニューと、学校の休暇中の保育料について確認してからもう一 度考えてみよう。Kindeeでは、年間12日までのお休みは保育料を払わなくてよい、それ を越えた分については、正規の料金が必要(クリスマス休暇一ヶ月は保育園もお休みなの で無料、ということは、たいていの勤め人が一ヶ月の夏休暇をとるということか?)。普 通は、日本と同じように休んでも正規の料金を払うようだ。

 ところが月曜の朝、P先生がもう一度、カンガ幼稚園と別の大学付属保育園に電話して くれた。前に電話した時は満杯だったところだ。だが空きがあったのだ。House at Pooh Corner(プー横町の家)、この大学では「くまのプーさん」にちなんだ名前を保育園につ けており、三つ目の保育園はティガーという。大学が専用の保育園を三つも抱えているな んて・・・!公立の保育園なので、他と比べて安い。週に$144つまり一日$28.8、私の年 収が一定額を越えているので最も高額になる。だが、1月には一日$33に値上げ予定、政 府の補助金削減の為である。保育内容も良さそうだ。

ということで、無事、保育園を確保。ところで、オーストラリアの保育園と日本の保育園 の違いをまとめてみると・・・

3. オーストラリアの保育園って?!・・・みつかってからのお話

オーストラリアは契約社会!!

 例えば、プー横町の家保育園では、お迎えが遅れると罰金をとられる。この制度は他の 保育園にもあったから、珍しいことではないようだ。5:30の正規時間で申し込んでいる場 合、5:31には罰金、15分ごとに$10(特例保育は6:00をすぎると罰金の対象)。6:30を すぎると、子供は職員の家に連れていかれる。そういった細かな取り決めが文書になって いて、「読んで了承しました」というサインをしなければならない。その他に「教育実習 が行われることを了承します」というサイン、「子供を施設の外に散歩に連れ出すことを 了承します」というサイン、「38.3度以上の時に薬を与えてもよい、連絡があった場合は すぐ迎えにくる」というサイン、「医療方針(伝染性の病気の時は休ませるetc)を了承し ます」というサイン、「保育料をきちんと払い、遅れたときは罰則に従います」というサ イン、「けが、病気の際は保育園が指定の病院に連れていっていい」というサイン、「職 員が最前を尽くすことを理解し、保育園でのけが、病気に関して保育園を法的に訴えませ ん」というサイン(ひぇー!)、「裁判所から保護者権についての決定があった場合は、 保育園に知らせます」というサイン、えーと、これで全部かな?

帽子なければ、外遊びなし!

 紫外線の害が問題になっているオーストラリアでは、No Hat, No Play。帽子がない と、外で遊ばせてもらえない。日焼け止めクリームが保育園提供か、持参か入園説明書に も明記されていて、毎朝塗ってから子供を預けるようし指示されている。プー横町の家保 育園では、園庭の上に幕がはってあって日をさえぎるようになっている。しかも夏になる とほとんど内遊び、子供が外に出られるのは日が傾きかけた4時過ぎ。「お母さんのお迎 えが早いから、外で遊べなかったの」と娘に言われてしまった。

お誕生日にはケーキ持ち込み可

 普段はあまり甘いものを出さないプー横町の家だけれど、誰かのお誕生日の時は特別。 親が、自分の子供のために誕生日ケーキを差し入れてもいいということになっている。ケ ーキだけでなく、ちょっとしたプレゼント(お菓子、風船、紙帽子etc)を全員分用意す る親も多い(誕生日は最大のイベントなのだ。家でのパーティでは、民間の会社からラク ダ、道化師、妖精のお姉さんなどを借り出す親も???)。20人も子供がいれば、月に 1〜2回は誕生日会。この日はTシャツにべっとりチョコレートをつけてかえってくるの で(エプロンなど、しないのだ)、すぐ分かる。

規則とは? 平等とは?

 プー横町の家の規則は「保育園にお菓子やおもちゃを持ってきてはいけません。ただ し、お昼寝の時だけ使うお気に入りのぬいぐるみは別(これがなきゃ寝ないというもの )」とある。もっともな規則であるし、もちろん守るようにしています・・・私は。とこ ろがルール無視の親の多いこと。平気で子供にアメやガムを持たせるのだ。もちろん、お 菓子をみれば智里だって欲しい。でも、新参者の娘はなかなかお友達からお菓子をもらえ なくて、寂しい思いをするようだ。それも問題だけど、もっと問題なのはアメやガムを食 べながら遊んでいれば、虫歯や食欲不振の原因になるだけではなく、喉につまらせる恐れ がある。それで、先生に苦情を申し入れること二度、三度。ところが、こちらが期待する ような反応(日本だったら、お菓子をとり上げるなり、持ってこさせる親に個人的に注意 するなりするのでは?)は得られないのだ。「お菓子持ち込みについては、我々に困って いる。でも張り紙をしても(私が苦情をいってから、張り出されたもの。「ごきぶりがく るので、お菓子を持たせないで下さい」というのがその内容)、お菓子を持たせるのだか ら仕方がない」という、全く消極的かつ無責任な(と私には思えてしまう)反応なのだ。

この話を同僚にすると、意見は二種類。「許しがたいわ。保育園側は、その場でお菓子を 取り上げて、親が迎えに来たら注意するべきよ」というのが一つ。もう一つは「オースト ラリアの親達は、そんなことにはあまりこだわらないのよ。他の子供がお菓子を持ってい てもいいじゃない。他人が自分が持っていないものを持っているのは当たり前のことだ し、自分がそれを持っていなくても他人よりも劣っているということにはならない、とい うことをオーストラリアの子供達は早くから学んでいくのよ」というもの。この意見は、 日本の平等主義(?)に慣れた私にとって、全く新鮮だった。ちなみに「規則は守るべき でしょ」と言うと、「それは規則による」という返事が返ってきた。

余談であるが、欧米社会で生活する日本人にとってしんどいのは、常に「主張する(しか も彼らの言葉で)」ことを求められることではなかろうか。黙っていては、何も解決しな い。不動産屋にアパートの窓の修理をさせるのにも、かなり強く主張(ほとんどけんか 腰)しないとやってもらえないのだ。このお菓子の件では、もう一つ続きがある。遠足に ボランティアとして参加したのだが、自分の子供を連れて来ていた職員が、その子と自分 の分のアイスクリームを他の園児達の目の前で買ったのだ。当然、娘と娘の友達(その子 の親は来ていなかったので、私の担当になっていた)は私に「アイスクリーム、買って、 買って」と大合唱。でも、娘はともかく、他人の子供に勝手にアイスクリームを食べさせ る訳にはいかない(「そんなこと、誰も気にしない」という同僚もいたが)ので、ひたす ら我慢させた。しかし、私の方は我慢ならなかったので、とうとう園長に直接交渉。職員 会議の議題とする、という回答を引き出して、とりあえず良しとした。私の同僚の一人 は、子供の学年末の成績評価が納得いかないと言って、担任や校長(!)と何度も話し合 いをしていたようだ。 といろいろあったが、有り難いことに、娘は今の保育園が大好き。そして「子供が喜ん で、保育園に行ってくれる」ことが Working Mother にとって一番大事なことだろう。 top

オーストラリア関連リンク

Australia Web
http://www.australia.or.jp/

 オーストラリア大使館。オーストラリア全般について紹介されてます。(日本語)

Australia Living Net
http://www.ics.com.au/lif/lifl1.HTM

 オーストラリア移住・駐在ネット。ビザ・医療・保険・税金などについて知りたければこちらへ。 (日本語)

Department of Employment, Education, Training and Youth Affairs
http://www.deet.gov.au/pubs/

 オーストラリア政府のページ。雇用や教育に関する報告書や資料がオンラインで読めます。 「WOMEN & WORK」の項目もあり。(英語)

日豪プレス
http://www.nichigo.com.au/toppage.htm

 日豪プレス(オーストラリア最大の日本語新聞)のオンライン版。 シドニー発のニュースや情報がいっぱい。(日本語)

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作者プロフィール

谷本友子さん。高校教師(英語)。現在、交換教員として、3歳の娘、留学中の夫と共に シドニーに住む。


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Last updated on 2/11/98 by Shimada